※この記事には、Netflix映画『クロース』(2019年)の結末を含むネタバレがあります。作中の出来事と制作陣の説明を踏まえ、人物の心理や象徴については本記事の解釈として考察します。
贈り物を届けていた男が、ある日、誰にも行き先を告げずに消えてしまう。それでも、彼と過ごした時間は終わらない。
『クロース』のラストには、別れの寂しさと、再会を待つ喜びが同時にあります。
クロースは死んだのでしょうか。亡き妻リディアを思わせる風は、何を伝えているのでしょうか。
その結末を理解するには、クロースが子どもたちへ贈ったものと、郵便配達員ジェスパーが受け取ったものを、両方から見つめる必要があります。
『クロース』の作品情報とあらすじ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | Klaus |
| 製作年 | 2019年 |
| Netflix配信開始日 | 2019年11月15日 |
| 監督 | セルジオ・パブロス |
| 主な声の出演 | ジェイソン・シュワルツマン、J・K・シモンズ、ラシダ・ジョーンズ |
配信開始日やスタッフ、キャストはNetflixの公式資料に基づきます。About Netflix
裕福な家で育ち、働くことに身が入らないジェスパーは、北極圏の町スミレンズブルクへ送られます。父から課された条件は、1年以内に6,000通の手紙を扱うことでした。
しかし、町では二つの一族が争い続け、手紙をやり取りする習慣もありません。そんな場所でジェスパーが出会うのが、森の家に暮らすクロースです。
彼の家にあるおもちゃを子どもたちへ届ければ、欲しがる子どもたちが手紙を書く。その仕組みを思いついたジェスパーは、クロースと配達を始めます。Latinolife
結末を整理|クロースは消え、ジェスパーは毎年の再会を待つ
贈り物の配達は年を重ね、届ける範囲も広がっていきます。ところが12年目、クロースは、愛する誰かに応えるように森の奥へ向かい、そのまま姿を消します。
ジェスパーたちが捜しても、彼は見つかりません。
その後のジェスパーには、アルバと子どもたちとの暮らしがあります。そしてクリスマスの夜には、そりの鈴の音が響き、彼は年に一度、友人に会えるのだと語ります。SS
ここで映画は、クロースの行方を細かく説明することよりも、再会を信じて待つジェスパーの穏やかさに重きを置いています。
クロースは死んだのか?妻のもとへ向かう別れとして読める
本記事では、クロースの失踪を、人としての生を終え、亡き妻のもとへ向かうことを暗示した場面と解釈します。
ただし、映画は死因を説明したり、亡くなった身体を映したりしていません。森へ向かう姿と、その後の不在によって、静かに別れを伝えています。
クロースにとってリディアは、長い年月を経ても大切な相手です。その彼が、恐怖や抵抗を見せずに歩いていく。そこには、妻と再び会えるかもしれないという安らぎが感じられます。
風が伝える、リディアの気配
クロースの周囲に流れる風は、亡き妻の存在を思わせます。制作陣への取材を含むLatinoLifeの記事でも、風とリディアの結びつきが指摘されています。Latinolife
風には、つかめる身体がありません。それでも、木々や雪を動かし、人がそこに何かを感じることはできます。
この表現は、クロースが妻を思い続ける感覚とよく重なります。目の前に姿がなくても、共に生きた時間が、その後の行動や感情に触れてくるのです。
森へ向かう最後の歩みは、そうした気配に身を委ねる瞬間として見ることができます。
最後の再会には、物語が魔法へ移る意味もある
セルジオ・パブロス監督はインタビューで、できるだけ魔法を取り除いて物語を進め、終わりに魔法が始まる構成を考えたと説明しています。lrmonline.com
それを踏まえると、ラストの再会は、クロースが伝説のサンタクロースへつながっていく場面と読めます。
それまでの配達には、働く人の身体があり、道具があり、手間がありました。その積み重ねの先に、クリスマスごとに訪れる不思議な存在が生まれる。
人としての別れと、サンタクロースとして続いていく時間が、一つの結末に重なっているのでしょう。
クロースのおもちゃに込められていた、届かなかった愛情
クロースとリディアは、子どものいる家庭を望んでいました。クロースはその未来を待ちながら、おもちゃを作り続けます。しかし二人に子どもは授からず、やがてリディアは亡くなります。The Movie Spoiler
この事情を知ると、家に残されたおもちゃの見え方が変わります。
それらには、まだ見ぬ子どもを喜ばせたいという期待が込められていました。使われないまま置かれたおもちゃは、二人が思い描いた暮らしの痕跡でもあるのです。
ジェスパーとの配達によって、そのおもちゃが、今を生きる子どもたちの手に渡ります。
クロースは、妻を思う気持ちを抱えながら、再び誰かの喜びに関われるようになる。受け取る相手が現れたことで、贈りたかった愛情にも行き先が生まれます。
だから彼の変化には、喪失を経験した人が、もう一度他者とつながる切実さがあります。おもちゃを手放すことが、閉じていた日々を少しずつ開いていくのです。
ジェスパーの成長|手紙の数から、受け取る人の顔へ
ジェスパーが配達を始めた動機は、自分の生活を取り戻すことでした。手紙が増えれば目標に近づき、この町を離れられる。その計算が、行動の出発点にあります。
ところが、誰かのために動いているうちに、計算だけでは説明できない喜びを知っていきます。
サーミの少女への贈り物が示す変化
その転換がよく表れるのが、言葉の通じないサーミの少女に向き合う場面です。
ジェスパーはアルバの助けを借りて少女の望みを知り、自分でも贈り物作りに取り組みます。クロースも手を貸し、二人は少女にそりを届けます。SS
手紙の数だけを考えるなら、意思疎通に時間がかかる相手は、後回しにしたくなる存在でしょう。それでも彼は、その子が何を願っているのかを知ろうとします。
ここでは、手紙が一枚の実績から、一人の子どもの声へ変わっています。
贈り物を受け取った相手の喜びを見たことで、ジェスパー自身にも、もう一度その喜びに関わりたいという気持ちが生まれたと考えられます。
過去の動機を問われたあと、何を選ぶのか
終盤では、当初の目的が周囲に知られ、ジェスパーは信頼を失います。それでも町に残り、子どもたちの贈り物を守るために行動します。SS
この選択には、彼の変化を確かめる意味があります。
自分の都合で始めたことでも、相手を知る過程で、続ける理由が変わることはある。ただし、その変化は本人の説明だけでは伝わりません。
ジェスパーは、これからどう行動するかによって、今の自分が大切にしているものを示していきます。物語が最後に彼へ求めるのは、誰と、どこで生きたいのかを、自分で選ぶことなのです。
なぜ町は変わったのか|親切が、争いの習慣に入り込む
町の変化も、小さな動機から始まります。
子どもたちはおもちゃを欲しがり、手紙を書くために学校へ通い始めます。また、よい子でいれば贈り物をもらえると考えて、親切な行動を取るようになります。The Movie Spoiler
最初の行動には、見返りへの期待があります。しかし、実際に誰かと遊んだり、助け合ったりする経験は、その期待を超える関係を生みます。
相手の一族だから敵だと教えられてきた子どもが、一緒に過ごす楽しさを知る。文字を覚えた子どもが、自分の願いを言葉にできるようになる。
そうした変化は、町で暮らす時間そのものを変えていきます。
本作の一族同士の争いは、受け継がれた習慣として描かれます。大人が続けてきた敵意に対し、子どもたちは、別の相手との関わり方を経験していくのです。
パブロス監督は、作品の中心にあるメッセージを、親切が人から人へ広がることだと説明しています。lrmonline.com
この町では、贈り物をもらった喜びが、誰かに親切にする理由になります。善意を受け取った人も、次に何かを渡せる。その連なりが、長く続いていた争いの中に、新しい日常を作っていくのでしょう。
サンタクロース誕生の意味|魔法を支える、人々の仕事
『クロース』では、おなじみのサンタクロースの姿へ、人々の仕事や工夫を通じて近づいていきます。
監督は、観客それぞれが知っているサンタクロースへ、この物語の終わりでつながるように考えたと語っています。lrmonline.com
そのため、物語の中では、贈り物を届けるための協力に時間が割かれます。願いを聞き、形を作り、受け取る人のもとまで運ぶ。その途中には、多くの手が必要です。
ここに、郵便配達員を主人公にした意味があります。
ジェスパーは、贈る人と受け取る人の間を行き来します。誰かの願いを別の誰かへ運び、その願いに応える贈り物を届ける。彼が働くことで、それまで出会わなかった人々がつながっていきます。
本作のサンタクロースには、そうした関係の積み重ねが宿っています。最後に訪れる魔法を温かく受け取れるのも、その前に、人が誰かのために動く姿を見てきたからではないでしょうか。
手描きの温かさと光が、物語を包む
本作は、立体的に見える映像も印象的です。パブロス監督によれば、手描きアニメーションに光と質感の工程を加え、人物と背景がなじむ表現を目指しています。lrmonline.com
その映像からは、雪や木材の感触、室内の灯りの温かさが伝わってきます。手で作られたおもちゃが人を喜ばせる物語と、描かれた線に手仕事の気配が残る映像は、よく響き合っています。
人物の心が少しずつ開いていく変化を、光や空間の表情からも感じられる。それが、本作の感動を支える魅力の一つでしょう。
ジェスパーにとって、サンタクロースは毎年会える友人
最後のジェスパーは、クロースに何が起きたのかを説明し尽くそうとはしません。彼にとって確かなのは、年に一度、友人に会えるということです。
ここには、贈り物を届ける側だったジェスパーが、今度は訪れを待つ側になるという変化もあります。
彼は、クロースとの日々を通じて、人を喜ばせる楽しさを知りました。そして今は、自分のもとへ来てくれる相手がいる。その喜びを、静かに受け取っています。
『クロース』の結末に残るのは、長い時間を共にした二人の友情です。
誰かのために始めた仕事が、自分の人生にも大切な関係をもたらす。そりの鈴の音は、その関係が今年も続いていることを、ジェスパーへ知らせているのでしょう。
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