映画『aftersun/アフターサン』ネタバレ考察|父カラムのその後とラストの意味

※この記事には、映画『aftersun/アフターサン』の結末を含むネタバレがあります。

映画『aftersun/アフターサン』のラストでは、空港で娘を見送った父カラムが、ストロボの光が点滅する暗い空間へ歩いていきます。なぜ現実の空港が、あの場所につながるのでしょうか。

この場面は、父を失った娘ソフィが、残された映像と記憶の中で父に近づこうとする姿として読むことができます。ただし、映画はカラムの死因や、その後の人生を具体的には説明しません。

物語を理解する鍵は、映像に残った出来事と、ソフィが覚えていること、後から想像したことが重なっている点です。本記事では、この構造を手掛かりに、カラムのその後、暗いダンスフロア、「Under Pressure」、タイトルの意味を考察します。

『aftersun/アフターサン』の作品情報とあらすじ

項目内容
製作年2022年
監督・脚本シャーロット・ウェルズ
カラム役ポール・メスカル
少女時代のソフィ役フランキー・コリオ
成人したソフィ役セリア・ロールソン・ホール

11歳のソフィは、離れて暮らす父カラムと、トルコのリゾート地で夏休みを過ごします。プールで遊び、食事をし、ビデオを撮る。二人のやり取りには、気安さと愛情があります。

一方で、カラムは娘といるときの姿からは分からない苦しみを抱えています。将来への不安をのぞかせ、ときには一人で涙を流す。その内面は、ソフィに十分には伝わりません。

約20年後、当時の父と同じ年齢になったソフィが、旅行の映像を見返します。映画は、その現在の視点から、父娘が過ごした夏をたどっていきます。Happinet Phantom Studios

ラストの意味|空港の別れが「記憶の中の父」へつながる

旅行の終わり、カラムは空港でソフィを見送り、ビデオカメラで娘の姿を撮影します。やがてカメラをしまい、通路を歩いて扉の向こうへ消える。その先に見えるのが、映画の途中から挿入されてきた、ストロボの光が点滅する空間です。

成人したソフィと、旅行当時の若いカラムが同じ場所にいるこの空間は、ソフィの記憶や想像を表す場所と考えられます。

空港での別れは、子どものソフィにとっては旅行の終わりです。しかし、その映像を見返す大人のソフィには、もう取り戻せない父との時間として映る。空港と暗い空間がつながることで、一つの別れに、当時と現在の二つの意味が重なります。

父は娘を撮影していました。今は、その映像を娘が見ています。父の姿が画面に映っていなくても、娘を見つめた父の視線は残っている。ラストには、映像を通じて二人の眼差しがつながる切なさもあります。監督も、カラムが撮った少女時代のソフィを、成人したソフィが見る構図について説明しています。charades.eu

父カラムは死んだのか?自死や時期は明言されている?

カラムが亡くなっているという読みには、十分な手掛かりがあります。成人したソフィが父を求める姿、カラムの内面に見える苦しみ、最後に父が暗い空間へ消えていく演出は、死別による喪失を強く感じさせます。

ウェルズ監督も、Sight and Soundのインタビューで、この映画を悲嘆についての作品として語りながら、結末には異なる受け取り方の余地があると説明しています。Sight and Sound

ただし、映画にカラムの死亡場面はなく、死因や亡くなった時期も明かされません。自死を想像することはできますが、「旅行の直後に自死した」と時期まで確定することはできません。

夜の海へ入る場面も、その場で亡くなったことを示す場面ではありません。その後もカラムは登場します。

大切なのは、ソフィが今、父に直接問い掛けることのできない距離を抱えていることです。映像の中の父には何度でも会えるのに、当時何を考えていたのかという問いへの返事は得られない。その隔たりが、映画の悲しみを生んでいます。

ビデオと記憶の違い|映像にない場面はどこから来るのか

本作には、異なる性質の映像が重なっています。

映像の種類読み取れる役割
ホームビデオ旅行中に父娘が撮影した記録
映画として描かれる旅行の場面ソフィの記憶や、後から得た情報・想像による再構成
ストロボの光が点滅する空間現在のソフィが父を求める気持ちを表すイメージ

ここで重要なのが、カラムが一人でいる場面です。ソフィが見ていなかったはずの父の姿まで、なぜ映画に映るのでしょうか。

監督はMUBIのインタビューで、カラムが一人でいる場面には、後から得た情報などに基づく想像が含まれると説明しています。また、父を背中から撮ったり、鏡やガラス、壁越しに見せたりするのも、彼の内面を完全には知り得ない距離を表すためでした。MUBI

つまり、父が泣く場面を見ることで、観客がカラムの心をすべて知れるわけではありません。私たちもソフィと同じように、残った断片から彼を想像しています。

ビデオには、そのときの表情や声が残ります。しかし、それを見る人の年齢や経験は変わります。同じ映像なのに、昔は気にならなかった沈黙や視線が、今は別の意味を持つ。それが『アフターサン』の記憶の描き方です。

父と同じ年齢になったソフィに、何が見えるのか

子どもにとって、親は自分を世話し、物事を決めてくれる存在です。けれど、自分が当時の親と同じ年齢になると、その年齢の若さや、抱えていた迷いを実感することがあります。

ソフィも、カラムを「父親」としてだけでなく、一人の若い人間として見つめ直しているのでしょう。娘を楽しませたいと思いながら、自分の人生については不安を抱える人。その二つの姿が、現在のソフィには同時に見えてきます。

ただ、幼いソフィが父の苦しみに何も気付いていなかったと考えるのも単純すぎます。子どもは親の気分や、言葉にしない変化を感じ取ることがあります。それでも、その理由を理解し、言葉にする力は、大人と同じではありません。

この映画が描くのは、年齢を重ねて初めて分かることがある一方、分かったときには同じ時間へ戻れないという痛みです。

暗いダンスフロアと「Under Pressure」の意味

暗い空間では、成人したソフィがカラムに近づこうとします。光が点滅するたび、父の姿は見えたり消えたりする。手を伸ばしても、彼をそこにとどめておくことはできません。

監督はTOKIONのインタビューで、子どもの頃には距離を置いた父とのダンスに、大人のソフィはもう一度戻りたいと願っている、と説明しています。TOKION

終盤に流れるQueenとデヴィッド・ボウイの「Under Pressure」は、旅行中の父娘のダンスと、現在のソフィが父に近づくイメージを結び付けます。

同じ相手に向かう動きでも、子どものソフィは父と楽しい時間を過ごし、大人のソフィは、当時は十分に分からなかった父に触れようとする。二つの時間が重なることで、ダンスは幸福な思い出と喪失の両方を含む場面になります。

ウェルズ監督によると、「Under Pressure」は最初から脚本に指定されていた曲ではなく、編集の途中で試したところ、映像と強く結び付いた曲でした。Filmmaker MagazineFilmmaker Magazine

曲名をカラムの抱える重圧と重ねて読むこともできます。ただ、それだけでなく、離れた時間をつなぎ、父を求めるソフィの感情を一気に押し出す音楽としても働いています。

タイトル「aftersun」の意味|夏の後に残る熱と痛み

「aftersun」は、日差しを浴びた後の肌を手入れする製品などを表す英語です。日焼け止めや肌に触れる場面が印象的な、この映画の身体感覚とも結び付く言葉です。

その「あと」という響きを、ソフィが過去を見つめる時間に重ねることもできます。旅行中には見えなかった父の苦しみを、夏が終わり、長い年月が過ぎた後に考える。楽しかった記憶に、遅れて痛みが加わっていきます。

ただし、過去を理解しようとする行為には、痛みだけでなく、父とのつながりを保つ意味もあるでしょう。ビデオを見ることは、疑問を解決するためだけでなく、父の声や仕草、二人の親密さにもう一度触れることでもあります。

タイトルには、日差しの後に残る熱と、それをいたわるような感触を読むことができます。これは原題から考えられる一つの解釈です。

幸せな夏休みも、カラムの本当の姿だった

カラムの苦しみを知った後では、旅行中の笑顔まで、すべて無理をしていたように見えるかもしれません。しかし、父娘が楽しんだ時間を、悲劇の予兆だけに置き換えると、二人の関係の大切な部分が抜け落ちます。

ウェルズ監督は、二人の間に許されないことが残っていたという印象によって、共有した喜びが損なわれることを望まなかったと語っています。Sight and Sound

カラムには、娘と過ごす喜びも、一人で抱える苦しみもありました。ソフィにとっても、父との夏休みは、喪失につながる記憶であると同時に、愛された記憶です。

『aftersun/アフターサン』のラストが胸に残るのは、その両方を抱えているからでしょう。父について分からないことは残る。それでも、一緒に笑い、遊び、踊った時間は確かにあった。

ソフィが繰り返し映像を見つめる眼差しには、父を理解したい気持ちと、二人が共有した時間を失いたくない気持ちが重なっています。