殺し屋女子コンビのゆるくて危険な日常を描く『ベイビーわるきゅーれ』シリーズは、近年の邦画アクションにおいて異色の存在感を放っています。2024年公開の最新作『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』は、シリーズ3作目にして、さらに深化した人物描写と演出が話題を呼びました。
この記事では、映画ファン向けに本作を掘り下げていきます。映画を観た人はもちろん、これから観る人にも“気づき”をもたらすような視点で、物語構造・演出・キャラクター・テーマなどを分析していきます。
あらすじと基本データ:シリーズ第3作『ナイスデイズ』とは何か
『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』は、今泉力哉プロデュース、阪元裕吾監督によるシリーズの第3作。主人公は、見た目は普通の若い女性だがプロの殺し屋であるちさととまひろ。彼女たちの何気ない日常と、容赦ない仕事ぶりとのギャップがこのシリーズの魅力です。
本作では、彼女たちの日常に新たな“最強の敵”が現れます。その名は冬村かえで。元殺し屋でありながら現在は“平穏”を求める女性。しかし、過去との決別は簡単ではありません。ちさととまひろとの接触を機に、彼女の運命もまた揺れ動いていきます。
日常と暴力のギャップ:本作における “緩さ” と “緊張感” の対比
『ナイスデイズ』の最大の魅力は、「普通の日常」と「非日常的な暴力」のコントラストです。たとえば、スーパーでの買い物シーンの直後に突如訪れる暗殺ミッション。この急激な温度差が観客に強烈な印象を与えます。
ちさととまひろは、のんびりとした会話を繰り返しながらも、その手には常に銃が握られている。まるでアニメ『日常』と『ジョン・ウィック』が融合したような世界観。それは阪元監督の演出意図でもあり、暴力に対する麻痺とリアルな恐怖を絶妙にバランスさせています。
キャラクター造形と関係性:ちさと・まひろ・冬村かえでを中心に
ちさと(伊澤彩織)とまひろ(高石あかり)は、シリーズを通して強い絆を築いてきましたが、本作ではその関係がより深堀りされます。特に、まひろの「普通に働いて生きるのも悪くない」というセリフには、これまでのキャラにない“変化”が感じられます。
そして、本作のキーパーソン・冬村かえで(丞威)。かつて最強の殺し屋として名を馳せた彼女は、“過去とどう向き合うか”というテーマを体現する存在です。彼女のキャラ造形は非常にリアルで、アクションだけでなく心理描写も評価が高いポイントです。
アクション演出・映像美・構成:見せ場の評価と課題
『ナイスデイズ』では、シリーズおなじみの“リアルで地に足のついたアクション”が健在です。伊澤彩織自身がスタントなしでこなすアクションは、国内アクション映画において群を抜くクオリティ。特に終盤の対かえで戦は、緊張感と重量感が伝わってくる名シーンです。
ただし、テンポや編集に関しては一部で“中だるみ”との指摘も。日常描写が増したことで、アクションとのバランスが難しい場面もありました。とはいえ、その“間”もまた登場人物たちの内面を描くための余白として機能していると見ることもできます。
テーマ・メッセージと物語の狙い:本作が訴えるもの
本作の裏テーマは「居場所と孤独」です。殺し屋という職業を持つ彼女たちが、どのようにして社会と関わり、どこに“居場所”を見出していくのか。これは、現代の若者にも通じる普遍的な問いでもあります。
また、冬村かえでの存在を通して描かれる「過去との対峙」も重要なモチーフです。暴力に生きた者が、普通の生活を取り戻せるのか。その問いに対する答えが、この作品には静かに、しかし力強く込められています。
総評とキーワードを意識したまとめ
『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』は、アクション映画としての爽快感だけでなく、キャラクター同士の関係性や内面の変化、そして生き方に対する深い考察を内包した作品です。殺し屋という非現実的な設定を通じて、「自分らしく生きるとは?」というリアルなテーマに切り込んでいる点が特筆されます。
【Key Takeaway】
『ナイスデイズ』は、シリーズの中でも特に「日常」と「暴力」の境界をあいまいにしながらも、それぞれのキャラクターが自らの“生き方”を模索する過程を描いた、異色で成熟した1作である。