【映画考察】『Us/アス』が描く「影」と「特権」——その恐怖の正体とは?

ジョーダン・ピール監督による映画『Us(アス)』は、単なるスリラー映画を超えた、観る者に“問い”を突きつける知的な作品です。
本記事では、この作品の構造、象徴、社会的メッセージ、そして観客に投げかけられるテーマを深堀りしていきます。初見では見逃しがちな伏線や比喩を読み解きながら、『Us』が映し出す「私たち」とは誰なのかを探ります。


スポンサーリンク

作品紹介と基本設定:映像/物語の枠組みから「Us」を捉える

『Us』は、アデレード一家がバケーション先で自分たちと瓜二つの「影の家族=テザード」に襲われることで始まるサスペンスホラーです。
物語の核となるのは、表向き平穏に見える人々の裏側に存在する「もう一つの自分」、すなわち「影」の存在です。

監督のジョーダン・ピールは、人種や社会階級を主題にした前作『ゲット・アウト』で高評価を受け、本作でも深い寓意を含んだ映像美と語り口を展開しています。

特に印象的なのが、地上の家族と地下の家族が完全に「対=鏡像」の関係にある構造。
この設定は、観客に「自分の裏側にあるもの」を突きつけ、視覚的にも心理的にも不安定さを増幅させます。


スポンサーリンク

「US/us」 多義性としてのタイトル分析:私たちか、合衆国か?

タイトル「Us」は、単純に“私たち”という意味だけでなく、「U.S.(アメリカ合衆国)」をも暗示しています。
この二重の意味が作品全体に複雑なメッセージを与えています。

例えば、“HANDS ACROSS AMERICA”というキャンペーンをモチーフにした描写は、1980年代アメリカの「団結」の象徴として登場しますが、それは偽善的な表層に過ぎなかったとも受け取れます。
ピールはその象徴を皮肉的に使い、「アメリカ」という国が無意識に押し込めてきた“もう一つの現実”を炙り出しているのです。


スポンサーリンク

伏線・メタファー・暗喩:読まずに観られない「隠れた仕掛け」

『Us』は視覚的な伏線が極めて多く、何気ないシーンにも重要な意味が込められています。

  • 11:11:劇中で繰り返される数字。聖書の引用や対称性、そして「鏡映し」のメタファー。
  • 赤い服と金のハサミ:暴力と革命の象徴。目立つビジュアルで地下の民の存在を強調。
  • ウサギ:繁殖・実験・無垢といったテーマの象徴。
  • 鏡と影:地下世界と地上世界、表と裏、自己と他者の関係を示す構造。

こうしたモチーフを丁寧に追うことで、単なるホラーとは異なる「哲学的ホラー」の本質が浮かび上がります。


スポンサーリンク

社会/文化的文脈としての「Us」:階級・特権・裏側の人々

『Us』は、社会的階級と特権の問題を「地上の人々」と「地下の人々」の対比によって描いています。
地下で暮らす“テザード”は、地上の人々と同じ人生を歩んでいるはずなのに、自由も尊厳も奪われてきました。

この構図は、アメリカ社会における「声を奪われた存在」=貧困層・有色人種・移民などを象徴していると読み取れます。
“表”に出ることができない人々の怒りや苦しみが、「影」として具現化しているのです。

ジョーダン・ピールはこの点を明言はしていないものの、構造上それが明らかに意図された設計となっています。


スポンサーリンク

ラストシーンと問いかけ:観客が連れて行かれる先とその答えなき余白

『Us』のラストは観客に強烈な違和感を与えます。
アデレードが実は“交換された存在”であったことが明かされると同時に、「真の“Us”とは誰か?」という問いが残されます。

このどんでん返しにより、観客は「善悪」の価値判断が揺らぐ感覚を味わいます。
誰が本物で誰が偽物かという単純な話ではなく、「社会が押し込めた存在を自分はどう見ていたのか?」という鏡を突きつけられるのです。

その意味で、『Us』は見る者を試す作品であり、鑑賞後の議論が最も重要なホラー映画だといえるでしょう。


スポンサーリンク

おわりに:『Us』が映すのは“他者”ではなく“私たち”自身

『Us』は恐怖の裏に深いメッセージを秘めた映画です。
「恐ろしいのは影ではなく、自分自身かもしれない」――その問いは観客の胸に強烈に突き刺さります。

表と裏、特権と抑圧、善と悪が曖昧に混ざり合う本作は、時代を映す鏡であり、鑑賞者の意識を試す知的スリラーといえるでしょう。
ぜひ2回目以降の鑑賞で、伏線や象徴を再確認し、あなた自身の“Us”を見つめてください。