『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』考察と批評|“成功神話”の裏側に迫る映画レビュー

2024年カンヌ国際映画祭で話題を呼んだ映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、単なる伝記映画ではなく、「いかにしてアメリカを代表する人物が“創られた”のか」を鋭く描き出す作品です。本記事では、その物語構成、キャラクター描写、演技、脚色の手法、そして社会的反響までを多角的に考察し、批評を行います。


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映画『アプレンティス』あらすじと制作背景:トランプ“創造”の物語とは

『アプレンティス』は、若き日のドナルド・トランプ(演:セバスチャン・スタン)とその“師”となる悪名高い弁護士ロイ・コーン(演:ジェレミー・ストロング)との関係を中心に展開されます。

物語は1980年代初頭のニューヨークを舞台に、不動産ビジネスで台頭し始めたトランプ青年が、ロイ・コーンから“勝つための哲学”を学ぶ過程を描写。監督のアリ・アッバシは、ドキュメンタリーではなくドラマとしての力を重視し、脚本には緻密な人間描写と政治的批判性が込められています。

本作は実話をベースとしながらも、トランプの“神話”を脱構築するような視点を採用。結果的に「誰が彼を“創った”のか」「どんな思想が現在のアメリカを形作ったのか」という問いが観客に突きつけられます。


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ロイ・コーンと“勝つための3つのルール”:師弟関係のモチーフ分析

本作の中心的モチーフは、ロイ・コーンがトランプに伝授する「勝つための3原則」——

  1. 絶対に謝らない
  2. 反撃は倍返しで
  3. 自分が負けても“勝った”と主張せよ

この三原則は、後年のトランプの政治的スタイル(特にSNSでの振る舞い)とも強くリンクしており、ただの人物描写にとどまらず、アメリカ社会の分断やポピュリズムを象徴的に示しています。

コーンの存在は単なる悪役ではなく、影の教育者として描かれ、倫理と非倫理の境界を観客に問います。この“悪徳の継承”こそが本作最大のテーマであり、その描写はシェイクスピア劇を思わせる深さがあります。


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演技・キャラクター考察:セバスチャン・スタンとジェレミー・ストロングの挑戦

主演のセバスチャン・スタンは、これまでのイメージを覆す繊細かつ冷徹な若きトランプを演じ、表情の少なさと抑制された語り口で、内面の葛藤と野心を巧みに表現しました。

一方、ジェレミー・ストロング演じるロイ・コーンは、法廷での狡猾さと私生活での孤独の両面を見せることで、強烈な印象を残します。特に、2人の密室シーンにおける緊張感は、言葉よりも“間”で語る演技の極致といえるでしょう。

このキャスティングは、単なる“似ている人物”を集めたものではなく、心理的な距離感と支配関係を体現する演技者としての妙が光ります。


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事実とフィクションの境界:脚色・誇張と歴史的真実へのアプローチ

本作は「実話ベース」であるものの、あくまで“創作”として作られており、脚色や誇張も含まれています。とりわけ、トランプとコーンの関係の密接さ、政治家たちとの裏交渉、同性愛に関する描写などは、ドキュメンタリーでは描ききれない「感情の真実」を伝えるための演出といえるでしょう。

この脚色がもたらす効果は、観客の“事実認識”を揺さぶり、「見たい真実」ではなく「知らなかった真実」へと誘導します。

ただし、こうした手法は観る者に一定の知識と批判的思考を求めるため、完全な“入門映画”とは言い難い点も。あくまで“創作を通じた批評”として受け止めるべき作品です。


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批評・反響と論争:トランプ陣営の反応とメディア評価

映画公開直後から、トランプ本人やその陣営は激しく抗議。公式声明では「嘘と誹謗中傷に満ちたプロパガンダ」と断じられました。実際、アメリカ国内では一部の保守層から激しい反発が起き、上映を拒否する劇場も。

一方で、国際的な映画祭では高い評価を獲得し、特に欧州では「現代アメリカの神話解体」として好意的に受け止められています。

批評家からは、「政治的な炎上よりも、人物の深層を描いた点が評価されるべき」「トランプという現象を個人と社会の交差点で捉えている」との声が多く、分断を映し出す“鏡”としての価値が強調されています。


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Key Takeaway

『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、ただの人物伝や風刺映画ではありません。それは、政治と権力、倫理と非倫理、そしてアメリカという国そのものの構造を問う重厚なドラマです。トランプという“現象”が、個人の資質だけでなく、時代と社会によってどう形成されたのか。そのプロセスを暴き出すこの作品は、現代社会に対する鋭い問いを突きつけてきます。